小説です〜。

逢初 

私の名はジーン。
組織の戦士になるため、最終鍛練の日々を送っている。
身寄りの無かった私が育ての親を亡くした時、見ず知らずの男にここに売られてきたのだ。

黒服の男に引き渡され、ついた場所がここだった。
東の最果ての地、スタフ。
この地で私は体の中に化け物を入れられ、激痛と闘ったのち、今は戦士としての訓練を積んでいる。


最終鍛錬に入ると印と防具を与えられ、くる日もくる日も剣の打ち合い。
仲間もいたはずだったのに、いつのまにか私一人になっていた。
鍛練の最中に死んだのか、妖魔化して葬られたのかはきかされていない。
初めの頃はともに過ごしていたのに、修業が進むに従って、互いに隔離されるようになってきたからだ。
黒服の独り言で、

上から…急いで…足りない…

とか言っているのがきこえたことがある。
我々は、無茶な修業をさせられているのだろうか?
無敵のクレイモア(いや、これは人が我々を呼んでいる言葉だった――使うべきではない)

が何人も死んでしまうことなんてあるのか?
戦士として一人前になれば、真相が知らされるかもしれない。


「ふぅ…」


今日の鍛練も終了した。食事をし、体を洗い流す。疲労回復のためにも一刻も早く眠らなければ。


( ! )


『誰だ!』


半人半妖の気配を感じた。すごく小さな妖気だ。
木陰から現われたのは、歳の頃12歳くらい、髪の長い少女。
印も剣も持っていないところを見ると、まだ候補生であろう。

(こんな、年端もいかぬ子供まで…)
感情のコントロールはできるようになっても、まだ人の情が心に残っているようだ。

悪びれた様子もなく言った。
「こっそり見学していた。すまない。黒服には黙っていてくれ」

(何?見ていた、だと?剣を合わせているときは何も感じなかったが……)

私達半人半妖は、実力は違えどすべて対等であり、歳の差や経験の差があっても
敬語などは使われない。そのように仕込まれるのだ。


「……ちょっと、いいか?」


『……?終わったらすぐ帰れ。
……なんだ?』


「前髪が、鬱陶しくないか?剣に差し支える」


『髪型が、か?』


「そうだ。前が長すぎる。妖魔相手だと一瞬でも命に関わるぞ」


『……』


私だって、好きでしているのではない。生まれつき眉毛がない私は、今までずっとこの髪型で生きてきた。
最初から見せてしまうと、どんな人間でも驚き、好奇の目で私を見る事に気づいてからは、ずっと……。
戦士になって、どうでもいいことだとわかっていても、そのままにしていた。


「今の方がいい」


『は?』

水浴びした後で、私の前髪は後ろに撫で付けられていた。そのことに自分では気がついていなかった。

(!!)

さすがに赤面することはなかったが、少し動揺が走った。


「似合うし、強そうだ」


無表情に、少女は言った。


(……)


また、何者かが近づいてくるのを感じた。離れた所から声がした。

「時間ない!!黒服戻ってくるぞ!」

どうやら、少女の連れのようだ。
姉のようにも見える彼女が、私に怯えながらも素早く会釈し、
急ぎ遠ざかっていく。

「エレナ、今行く!!

……剣、参考になったよ」

チラっと微笑み、一瞬振り向いたあとに、素早く去っていった。

会話の断片が聞こえる。

『まったく!クレアは、強い人がいれば、どんな所にも行くんだからな!』

「悪い……」


     *   *   *



ああ、そうか。

あの時の少女が、クレア、おまえだったんだな。
すっかり忘れていたのに、最後になって思い出すとは。
あれ以来、全く気にならなくなった。
おまえのおかげだったんだ。


……もしかしたら、2回以上、救われていたのかもな。


この話ができなくて、残念だが。
・・・ありがとう、クレア。
お前に会えて良かった。


――――――さよう、なら。